君待駅
痴漢に触られて、何も言えずにぎゅっと目を瞑った君を助けたくて…
強引に痴漢の腕を掴んだ。

君に確認を取ろうと思って声をかけた時…
目に少し涙を溜めて顔を上げた君が、不謹慎にも可愛すぎて、俺は思わず顔を背けた。
あんなの…直視できねぇよ…普通。

痴漢を駅員さんに引き渡した後、知香が小刻みに震えているのが分かって…。
突然泣き出した知香の頭をぽんぽんと撫でることしかできなかった。
それ以上は無理だった。

俺があの日、知香の顔をしっかり見ることができた時間なんてきっと10秒くらいだ。

あの時はただの一目惚れだと、そう思っていた。
始まりは一目惚れで間違いねぇけど…。でもそれだけじゃなかった。




知香の中身を知れば知るほど好きになる。
もっと知りたくなって、もっと近づきたくなる。



「いーかげん…言いてぇな。」


青い空に向かって言葉を吐き出した。

< 29 / 42 >

この作品をシェア

pagetop