一瞬の永遠を、きみと

夏海、あの夜のことは、覚えているかな。







ベッドじゃない場所で眠るのは初めてだった。

ばあちゃんの家の布団は平べったくて、なんだか少し変な臭いがしたけれど、病院の布団なんかよりもずっとずっと温かかった。



夏海は疲れたと言ってあっという間にぐうすか眠ってしまったけれど、俺はなかなか寝付けなかった。

だから、毛布にくるまって目を瞑りながら、いろんなことを考えた。

それは本当に、いろんなこと。


初めて見た景色、もの。

自転車の振動、夏海を怒らせた山道。

死んだ子猫、知らない花。

アイスを食べながら見た、大きな夕日。

そして、青い、風景。


いろんなことが、瞼の奥で、繰り返し繰り返し流れた。

たくさんありすぎて、頭の中がパンクしそうで。

でも全然そんなことはなくて。


だって今まで俺の中は、本当に空っぽだったから。




少しだけ、毛布の隙間から顔を出してみた。

瞼を開ければ、閉じていたときと変わらない暗闇が待っていたけれど。

だけど、その暗闇の中、小さな寝息を立てて眠る夏海の姿があって。

俺はなんだか無性に安心して、そのあとすぐに、眠れたんだ。



だけど、その眠りの中で、俺はとても冷たい夢を見た。
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