聖夜の恋人
「お客様前髪これぐらいでよろしいでしょうか」
美容師が指で前髪の長さの線を作ってみせる。
「あっもう少し長めで」
美容師は眉毛の下くらいまで指して「これくらいはいかがですか」といった。
「はい。お願いします」
目にかからないギリギリのところまで切ってもらった。
前髪が切り終わり時計を見ると二時間以上も経っていた。
あまりにも真剣に雑誌や妄想に耽っていた自分が少し恥ずかしくなった。
鏡を見ると髪の色はキラキラと赤茶に光っていて光の具合でピンクベージュやラズベリー色に見えるグラデーションが思っていた以上に美しくて心が躍った。
フラれて髪をばっさり切る子の気持ちがわかった気がする。
髪だけでなく不思議と体や心までとても軽やかな気持ちになった。
「可愛いですね」思わず口に出た。
「ありがとうございます。とてもお似合いですよ。すごく印象も変わりましたね」
美容師も満足そうに純子の髪をいじった。
「矢口様お疲れ様でした。少し巻くとこんな感じにふわふわ感が出ますのでぜひやってみてくださいね」
「わぁ!本当ですね、ありがとうございます」
美容師は最後にカーラーで軽く巻いてくれて雑誌に出てくるようなふわふわとした髪型に仕上げてくれた。
今日の美容院はかなりの高得点なところだったと言える。
美容室やネイルサロンで満足な施術を受けた数よりも嫌な思いをした数のほうが多くて苦手だったが通ってみようとさえ思った。
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