聖夜の恋人
「私はいいけど小池君こそ約束があったんじゃないの?」
「いやいや俺は全然!一人で映画見た帰りなんで。本当にいいんですか?」
「いえいえ、こちらこそ」
落ち着きのない小池君が可愛くて笑ってしまった。
「俺、なんかおかしいですか?」
「ううん、何も。さぁ、いこっか!どっかいいとこ知ってる?」
「はい!俺いい店知ってるんでそこ行きましょう」

「いらっしゃい!」
「どうも」
「おー直樹彼女連れか」
「違います違います!」彼は顔を赤くして「すいません、実はここ前バイトしてた店なんです」と申し訳なさそうに言った。
和風な造りの店内には個室とカウンターが用意されていた。個室に入ると畳の良い香りがして掘りごたつのようなテーブルに赤と白のクッションが並べれていた。
和室にクッションなんて普通は合わないけど丸いテーブルにおいてある小さなツリーのせいかなんだか妙に合っていて可愛かった。
「この部屋かわいいね」
「そうっすか?なんかアンバランスなんですよね、いつも」
「もしかしてあの人が?」声を潜めてさっき小池君に話しかけた男前な板前さんを指して言った。
「そうなんです。実は」彼はいたずらっぽく笑って板前さんを見た。
「なんだ直樹!早くオーダーしろ」
「はいはい、とりあえずビールでいいですか?」
「うん」
「ビール二つと前菜でお願いします」
「はいよ」
板前さんと目が合って微笑んだ。坊主頭であごに髭が生えているいかにもいかつい顔の板前さんが恥ずかしそうに笑って見せたので思わず笑ってしまった。
< 16 / 41 >

この作品をシェア

pagetop