聖夜の恋人
『こちらこそよろしくお願いします!私はいつでも大丈夫です!』
興奮状態のまますぐに返信した。
十分後、『じゃあ、明後日はどうかな?』と返ってきた。
『大丈夫です!』
『了解。そうそう、パソコンじゃあれだし携帯の方にメールもらえるかな?』
最後に携帯の番号とアドレスが書いてあった。
中川さんのほうを見た。彼もこっちを見てくれた。ニコッと笑う口元が少し震えた。

興奮冷めやまぬまま仕事が終わり、携帯を見ると直樹からメールが来ていた。
『お疲れ様!そろそろ終わりですよね?俺はまだ終わりそうにないです。あの、純子ちゃんってメール嫌いじゃない?』
敬語交じりのおかしな文章に笑ってしまった。
『文章変だよー仕事がんばって!メール嫌いじゃないよ』絵文字を多く使ってすぐに返した。
『すいません!本当?じゃあたくさんしても平気?』五分足らずで返ってきた。
『もちろん』
日曜日メールがあまりこなかった理由がわかった気がしてホッとした気持ちになった。
それから直樹とメールをしながら家に帰った。楽しかった。

小一時間位して家に着き『じゃあ、これからお客さんのところいってくるね。またメールします』
という直樹のメールで二人の会話は途切れた。
携帯を充電器に挿してバックの中から手帳を取り出すとメモ書きが一枚出てきた。
「そうだ!」中川さんの連絡先の書いてある紙だった。急いで充電中の携帯を外してメールを作成した。
最後にアドレスを一文字ずつ入力した。
女性の名前が入っている短いアドレスだった。
食事がのどを通らないような気持ちになり、送信してからしばらくアドレスを眺めた。
『七時に銀座の時計台の前で』
今日はついにデイナーの日だ。もうすぐ時計台の前に着いてしまう。
ドキドキする気持ちを抑えながら落ち着いた銀座の街に浮かないようなるべく颯爽と歩いた。
「矢口さん!こっちこっち」
前を見ると黒いロングコートに身を包んだ中川さんが手を上げていた。
「すいません!」私は駆け寄り頭を下げた。
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