聖夜の恋人
「いやいや、俺が先に来ちゃっただけだから。行こうか」
「はい!」
背が高くて顔立ちの良い中川さんは銀座の街にすごく馴染んでいた。並んで歩いていると自分が妙に大人びたように感じた。
「お酒飲める?」
「はい。」
「よかった。今日行くところ酒がおいしいんだ」そういって笑顔を見せた。
アドレスの女の名前が過ぎった。『ai』という女はこの笑顔を独り占めしていたのかもしれない。
『ai』って女は中川さんのなんだったの?

「ここなんだ」
「わぁーすごい!」
「雰囲気いいでしょ?」
「とても」
目の前にブルーの光が散りばめてあるホワイトツリーが何本も立っていてまるでそこは別世界のような美しいイルミネーションが私たちを迎えてくれた。
店内に入ると黒服のボーイさんが予約席に案内してくれた。店内はおしゃれなバーといった感じだったが吹き抜けの天井と手抜きなく施されたキラキラ光るイルミネーションがただのバーではないことを物語っていた。来ている客も店に似つかわしい人達ばかりだった。黒のワンピースを着てきてよかったと思った。

「よく来られるんですか?」
「そうだね、ここは一人でも来たりする」
「ここってさ、来てる人も上等な人が多いし男一人で来ると良い意味でプライドが持てる。だから弱気になったとき来るとがんばろうって思えるんだ」
「へぇー。なんかでも分かる気がします」自分がへこたれた時、適当な居酒屋に行くとさらにどうでもよくなる経験があったので言ってる意味がすごくよくわかった。
「気に入ってもらえたならよかったよ。ワイン飲める?」
「あっ白なら結構好きです」
「よし、じゃあ白にしようか。あとはコース頼んであるから」
「ありがとうございます」
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