聖夜の恋人
家についてベットに倒れこんだ。心臓がドクドク波打つ。今日はずいぶん飲んでしまった。目を瞑って振り返った。
『ai』という女は『愛子』という名前に違いない。見てしまった、出るか迷って切ない顔をしていた彼の姿を。
まだ何も聞いていないし私の思い込みかもしれない。だけど…。
いや、私は今日クリスマスの約束が無事に出来たのだ。
これで私の夢は達成した。なぜ喜べないの?
考えれば考えるほど不安が押し寄せて来る。頭の中がモヤモヤしてすっきりしない。
だんだん頭が痛くなってきたので薬を飲んで布団を深くかぶり固く目を閉じた。
こんなに気分が悪いのは久しぶりだった。悲しいとか苦しいとかそういうんじゃなくて頭の先からつま先までだるい感じが続いていた。
「おはようございます矢口さん。あの、この前の資料なんですけど」向かいの席の後輩だった。
「あっはいはい」
「すいません遅くなっちゃって。最近彼が毎日来ていて中々時間なかったんですよね」照れ笑いを浮かべながら彼女は話した。いつもなら笑顔で流していたが今日は無性に腹が立った。
「そんなのどうでもいいからなるべく早く提出して」そう言い放って席に着いた。後輩は不満げな顔をして席に戻った。
パソコンを開くと三通のメールが来ていた。部長の配信メール、店のお知らせ、そして中川さんだった。
二つのメールを無視して中川さんのメールを開いた。
『デイナー楽しかったよ。ありがとう。あれから大丈夫だったかな?実は今日から23日まで出張で新潟に行ってきます。仕事がんばってね』
読んでからしばらく考えた。
なぜ携帯にメールを返してくれなかったのか。なぜ出張に行くことを教えてくれなかったのか。
わかっていることはただ一つ、彼が帰ってくる間の三日間私は悩み続けるということだった。
< 26 / 41 >

この作品をシェア

pagetop