聖夜の恋人
「もしもし」
「もしもし。直樹です」
「は、はい」びっくりして携帯を持ち替えた。
「夜遅くごめん。今大丈夫だった?」
「うん。どうしたの?」
「いや、ちょっと話したくて。電話するの初めてだね」
「そうだね。びっくりした」
沈黙が流れる。初めての電話というのは必ず沈黙があるものだ。
「あのさ、純子ちゃんって好きな人いるの?」
唐突な質問に戸惑った。私は中川さんという好きな人がいる。今まで直樹に話すのはなんだか気が引けたけど彼もずっと前から好きな人がいるとはっきり言っていた。何かを期待していた彼への気持ちが恥ずかしくなり「いるよ」と答えを出した。
「会社の人?」
「そう」
「そうなんだ。告白はしないの?」
「うんークリスマスイブに会うからそのときっておもってる」
「偶然だね。俺もクリスマスに告白するんだ」少しの沈黙の後彼は元気よくそういった。
少し落ち込んだ。私は直樹のことが気になっていたのかもしれないと気付いた。
そして黙っていた私に彼はこういった。
「おたがいがんばろう。応援するから」
「うん」私は小さく返事をして電話を切った。電話をベットに放り投げた。
ベットに横たわるとすぐにメールがきた。
『夜遅くにごめん。話せてよかった。
俺明日から名古屋の会社に挨拶しにいってきます!クリスマスには帰ってくる。純子ちゃんがんばれ!』
いつもの可愛いはずの顔文字がすごく切なくて悲しかった。
「すいません」
夕方のレジ処理をしていたときだった。黒いパンツスーツを着たきれいな女が急いだ様子で話しかけてきた。
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