聖夜の恋人
一年もの間何度も中川さんとの夢を見て会社で会うたび嬉しくって心が躍り特別な存在だった。
やっと夢が叶いそうだった。
大事に育ててきたこの気持ちを一瞬でたまたま会った、絶対勝つことのできない女に壊された。

ほらまた、私はいつもそうだ。
もしかしてなんて期待した私がバカだっただけの話。
そう思ったら少し笑えた。

明日は中川さんが帰ってくる。
『おかえりなさい。昼休み会議室Aで待ってます』
『ただいま。新潟は寒かったよ!昼休み会えるの楽しみにしてる』

メールの返事はすぐに返ってきた。
本当だったら帰ってきたことが嬉しくて明日の予定とか二人で話し合って楽しい昼休みになるはずだった。
中川さんはこれを渡してどんな顔をするのだろう。
私がどんな気持ちでこのメールを送ったかなんてわかるはずないよね。

「矢口さん、これお昼までに頼むわね」
主任が会議にもっていく資料の制作を机の上の置いた。
ちらっと見ると上目遣いで腕を組んでいた。
「はい」
黒いスーツを着ていて黒髪の主任の顔があの女と被ってすぐに目を逸らした。
シャネルのチャンスの匂いがしなかったことが救いだった。
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