聖夜の恋人
「昨日、愛子さんっていう人が来ました」緊張しすぎてもうどうでもよくなり勢いに任せてメモと名刺を渡した。
彼は「え?」といってそれを受け取り中を見てびっくりした顔をした。
「元カノってこの人ですよね、すごいきれいな人ですね」
「矢口さん…」
「いいんです、明日行ってください。中川さんも愛子さんのことまだ好きなんでしょう?」
彼は困ったような顔をして視線を落としゆっくり頷いた。
失恋した瞬間だった。
あんなに頼りなくて情けない顔は見たくなかった。私の愛していた中川さんはもうそこにはいなかった。
どうしようもない気持ちになり溢れ出しそうな涙をこらえて「じゃあ、失礼します!がんばってくださいね」
といって会議室を出た。
ぽろぽろ涙が落ちるとはこういうことかと思うほどに涙が止まらなかった。
わかってはいたがやっぱり辛かった。

これで終わった。恋も夢も努力も。
どんなに自分が愛していたとしても相手には関係のない。こんなに愛してるのになんで答えてくれないの?なんて言えるはずもなかった。
好き。ということさえ伝えられなかったのだから。

屋上に上がった。空は悪気もなく青く澄んでいた。
『留守番電話サービスに接続いたします』
家につくなり靴も脱がないまま直樹に電話をしていた。
声がどうしても聞きたくなったのだ。
三回電話したが三回とも対応したのは留守電の音だった。
「そっか…」
忙しいから出れないのだとわかっていても拒否されてるかもしれないと考えてしまいますます落ち込んだ。
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