聖夜の恋人
こういうところはすごく彼らしいと思った。
「予約してくださったんですね」
「レディを待たせるわけにはいかないからね」
中川さんはそういって私の大好きな笑顔を見せた。胸が高鳴った。
「ありがとうございます」
二人はAランチを頼んだ。おすすめパスタにサラダ、季節のスープ、デザートといった一番人気のランチメニューだ。
「いつもメールの相手してくださってありがとうございます。迷惑じゃないですか?」
「いやいや、こちらこそ楽しいメールをありがとう。営業から戻ってきて矢口さんのメール見るとなんか癒されるよ」
「そんな…」
「ごめん、ちょっとおやじくさかったかな」
「全然そんなことないです!そんな風に言ってくれるなんて思わなかったから」
目の前にいる中川さんの表情一つ一つが私の体内の温度を上げていく。
会社の話や趣味の話をして、盛り上がったところで料理が来る前に本題に移った。
「中川さんって本当に彼女いないんですか?」
彼はサラダを食べていた手を止め、アイスコーヒーを口に含んだ。
緊張感が私の体を固まらせる。その口元から目が離せなかった。
「いないよ」中川さんの一言で緊張感が一瞬ほどける。
「そうなんですか、中川さんモテるから本当はいるんじゃないかと思って」
「いないいない。もう二年近くいないかな」
「意外です」
「そう?俺前の彼女に捨てられたくらいの奴だよ」
中川さんの元彼女の話を大まかに聞き出した。
彼女(愛さん)と中川さんは三年程付き合った後、中川さんはプロポーズをしたが愛さんはそれを断り、ファッションの勉強のためにフランスへ飛び立ったそうだ。
それを聞いてなんとなく彼女を作らない理由がわかってしまった気がした。
「矢口さん?」
「あっすいません、パスタ冷めちゃいますね」
私は知らないうちに黙り込んでしまった。目の前にぼやがかかり沈んだ気持ちになったのは確かだった。
パスタの味が全然わからなかった。
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