聖夜の恋人
「もう時間だね」
「そうですね、一時間って短いですね」
「本当だね。今日はごちそうさせて」
「えっいいんですか!ありがとうございます」
「ううん。その代わり、今度ディナーでもどう?」
「えっ?」私は一瞬耳を疑った。
「いや、今日は一時間しかなかったし矢口さんともっと話したいなとおもって。もちろんよければだけど」
「ぜひ行きたいです!」
さっきの気持ちとは裏腹に視界がパァーと明るくなり、心が躍った。
「よかった。じゃあ詳細はまたメールで」
「はい!楽しみにしてます」
社に戻り、仕事を再開したがパソコンを打つ手が少し震えた。嬉しいことがあっても震えって起こるんだな。
頭が興奮して落ち着かなかった。
さっき感じた嫌な予感…考えすぎだよね。もう彼女は日本にいないんだし。
私は高鳴る胸を押さえながら中川さんからのメールを読み返した。
「矢口さん接客お願い」
「はい、今行きます」
突然の接客ヘルプも今日は快く受けられた。
麻紀がいないのが残念だけど。帰ったら長電話決定だな。
今日は金曜日だからか店内はいつも以上に賑わいを見せていた。
しばらくレジに立ってると、「こんにちわ」と明るい声がした。
「あっ」
「今日はすぐ気付いてくれましたね」
小池君だった。彼はニカっと笑って「これお願いします」と配達物を渡した。
「いつもありがとう」私は前回の態度を撤回するかのように丁寧な挨拶をした。
「今日元気ですね」
「いえいえ」彼と視線がぶつかって一瞬「ドキッ」とした。すごく男らしい瞳をしていた。
「そんな気がしました。印鑑ありがとうございます」彼はそういって頭を下げた。
彼が頭を下げたとき男らしい匂いがしたので小さく空気を吸い込んだ。
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