粉雪舞い散る桜の匂い
驚いて、リツは見上げたまま動けなかった。
更にその男は、枝から飛び降り、リツの目の前に現れた。
「ーよっと、…雪で、桜の蕾はまだ開きそうにないな」
軽々と飛び降り、独り言の様に呟く。
漆黒の髪に、鳶色の眼。背が高く、白の長い外套を着こなしていた。
(綺麗な人…)
そう思った。
「ごめんね、驚かせて」
驚き固まっているリツに、そう優しく云う。
その口元には、白い煙が燻る煙草。
「い、いえ…、大丈夫です…」
リツは、何とかそう答えた。
頭の中は、桜の枝に人がいた事や、軽々と飛び降り現れた男が綺麗だなぁ、とか色々で、上手く思考回路が働かない。