粉雪舞い散る桜の匂い
「…今日は、泣いていたね…」
燻る煙草の煙を眺め、男は言う。
ドクン
鼓動が跳ねあがる。
「いえっ、大丈夫。たいしたことでは…ない、ので」
心を、鼓動を、抑えて静かに
静かにリツは応える。
だが、
抑えても、抑えても、過るー
『今度の日曜、五時にいつもの時計塔で』
交わした約束。
楽しみで、待ち遠しくて、昼過ぎに家を出た、約束の今日。
途中、街で人々の中に見つけた、先輩の姿。
嬉しくて駆け寄ろうとして、でも足が止まった。