好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
伊藤君。
大丈夫だから、そんなに心配そうな顔をしないで。
このまま、ちょっと休めば大丈夫……。
そう言って、笑顔を作ろうとするけど、力が入らない。
「立てるか?」
優しい言葉に、ようやく、コクリと頷きかえす。
私を支えるように、伊藤君の大きな手が背中に回った。
傷つけないようにと。
そんな気遣いが感じられるその手が、ゆっくりと私を引き上げ、
フワリと、鼻腔に届く微かな柑橘系の香りが、私の鼓動を早めていく。
背中越し。
薄布だけを隔てて伝わる伊藤君の体温は、なぜかヒンヤリと心地よくて。
涙がでそうなくらい、心地よくて。
早まる鼓動に、更に拍車をかけて、私を追いつめる。