好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

この部屋の中に、他に大人の男が隠れられるスペースなどないのは、分かっている。


おばちゃんは、『部屋にいるよー』って言ってたし、


浩二の車は車庫にあったから、少なくとも、家の中にはいるはず。


「トイレにでも、行ってるの?」


ジロリ。


もう一度、座った目つきで部屋の中をぐるりと見渡す。


と、その視線が、ある一点で釘付けになった。


天井だ。


ちょうど、ベッドの真上。


木目調の天井板に、等身大ほどの、大きな人物写真が貼り付けられている。


澄み渡る青空の下。


一面に咲き誇る向日葵畑。


その真ん中に、白いワンピースを身に纏った少女が、はにかむような笑顔を浮かべて佇んでいた。


黄色い麦わら帽子の下。


色素の薄い、サラサラのストレートヘアが、風に吹かれて舞っている。


長いまつげに縁取られた、ライト・ブラウンの大きな瞳。


丸みを帯びた白皙の頬。


微笑を形作るのは、可憐なピンクの唇――。

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