好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
いつもの社員食堂の、昼食後のお喋りタイム。
私は気分的に、かなり焦っていた。
「礼子さん、どうしよう~」
四人掛けのテーブルに、礼子さんと向かい合って座っていた私は、食事もそこそこに切り上げると、白いテーブルの上に突っ伏して情けない声を上げた。
明日の、土曜日。
いよいよ、直也のご両親に会いに行くことになったのだ。
それも、一泊二日の泊まりがけ。
場所は、直也の実家がある、三つばかり隣の県。
高速道路を使って、車で約三時間半ほどかかるらしい。
「まあ、自然体でいきなさいよ。亜弓があせる気持ちは分からないでもないけど、今からそんなに緊張してたら、本番で胃に穴があいちゃうわよ?」
食後のアイス・ティーを優雅に一口口に含んで、礼子さんはフフフと形の良い口の端をキュッと上げた。
そうは思うけど。
何か、とんでもないヘマをやらかしそうで、
それを考えるだけで、今から心臓がバクバクしてしまう。
礼子さんみたいに、繊細な気配りが急に出来るようになれるとも思えないし。
こんな時には、大雑把な自分の性格が、本当に恨めしくなる。