好きだと、言って。①~忘れえぬ人~


「女は男に対して、時を重ねた分だけ情が深くなる。それが必ずしも、愛情とは限らないのにね。本当、始末に負えない……」


ザワザワとした社食のざわめきの中に、ポツリと、礼子さんの本音が落とされる。


たぶん。


礼子さんは、自分のことを言っている。


いつも私から相談するばかりで、礼子さんから恋愛の相談を受けることは無かったけど、もしかして礼子さんは、苦しい恋をしているのかも知れない。


「礼子さん……」


そう思ったのが顔に出たのだろう。


礼子さんは、フフフといつもの艶やかな笑いに戻って、愉快そうに目を細めた。


「なんてね。私の持論を披露したけど、まあ、人それぞれだから。夫婦になることで、愛情を育むのも、素敵なんじゃない?」

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