好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

その夜。


アパートで一人。


私は、明日の直也の実家行きの準備をしながら、礼子さんが最後に教えてくれたことを、ボンヤリと思い出していた。


「亜弓の心が決まっているなら、それで良いけど、でももし、迷ったときは、こう考えてみて。

『もしも明日世界が滅ぶなら、自分は誰の側にいたいか』

心に浮かんだその人が、あなたの本命。

一番に大切な人なのよ」


『幸せになってね』


礼子さんは、話の締めくくりにそう言って、私のほっぺたを、優しく『ぷにっ』と引っ張った。


その感触が蘇り、荷造りする手を止めて、そっと左の頬に手を添える。


< 136 / 223 >

この作品をシェア

pagetop