好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
その夜。
アパートで一人。
私は、明日の直也の実家行きの準備をしながら、礼子さんが最後に教えてくれたことを、ボンヤリと思い出していた。
「亜弓の心が決まっているなら、それで良いけど、でももし、迷ったときは、こう考えてみて。
『もしも明日世界が滅ぶなら、自分は誰の側にいたいか』
心に浮かんだその人が、あなたの本命。
一番に大切な人なのよ」
『幸せになってね』
礼子さんは、話の締めくくりにそう言って、私のほっぺたを、優しく『ぷにっ』と引っ張った。
その感触が蘇り、荷造りする手を止めて、そっと左の頬に手を添える。