好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
朝一番でアパートを出た私は、直也の運転する車で、ご両親の待つ、彼の実家へと向かっていた。
ちょうどお盆時期と重なり、高速道路は、超・低速道路と化している。
トロトロと、亀並速度で進む車の助手席の窓から、私は動かない景色を見るともなしに見ていた。
「亜弓?」
「うん?」
「何か、あったのか?」
「……え?」
ボンヤリと、なんとく反射的に返事をしていた私は、直也のその言葉に現実に引き戻された。
運転席に視線を巡らせると、直也の心配そうな瞳と視線がかち合った。
メガネの奥の瞳は、相変わらず、穏やかな色をたたえている。
「なんだか、元気がないみたいだから、何かあったのかと思って」
直也は、鋭い。
そして、私は、我ながら鈍亀だ。
決意したのに。
決意したと思っていたのに。
この期に及んで迷っているなんて。
「何にもないよ? 朝早かったし、渋滞だし、なんだか眠くなっちゃった」
そう、この期に及んでだ。
今更、後には引けない。
私は決めたんだから。
直也と、結婚するって、そう決めたんだから。