好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
『眠っていていいよ』
と言う直也の言葉に甘えて、私は助手席のシートを倒して眠ることにした。
実を言えば、昨日は一睡もしていない。
目の下にクマが出来ているわけじゃないけど、たぶん疲れた顔をしていたんだろう。
直也に、心配をさせてしまった。
こんなことじゃだめだ。
少しでも寝ておいて、元気な姿でご両親に会わなくちゃ。
でも、そう思えば思うほど眠れなくなるのが世の常で。
案の定。
神経ばかりがさえ渡り、ぜんぜん眠くなってくれない。
これじゃ、あの時の、熱射病で倒れた時の二の舞になる。
そこまで考えを巡らせて、『しまった』と思った。
思い出すまいと心の奥に封印したあの日の出来事が、せきを切ったように私の脳裏に浮かんでは消える。
ダメだ。
思ったらダメ。
あれは、夢なんだから。
もう、覚めてしまった、夢なんだから。
必死にそう自分に言い聞かせていたその時。
プルルル――と、
私の携帯電話の着信音が鳴り響いた。