好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

「亜弓?」


「うん……」


再び直也に促され、


嫌な予感に怯えながら、恐る恐る、携帯電話を耳にあてた。


でも。


「……もしもし?」


呼びかけてみても、反応がない。


「もしもし? 浩二なんでしょ?」


「……亜弓」


聞こえてきたのは、今までに耳にしたことがないような、力のない浩二の声。


浩二にこんな声を出させる事態に思いを馳せて、背筋に冷たいものが走り抜ける。


「浩二……? どうしたの、浩二?」


我知らず、声が震えた。


「ハルカが……」


まるで。


無理にしぼり出すような浩二のその言葉尻に、微かな震えを感じて、私は思わず息を呑んだ。


< 144 / 223 >

この作品をシェア

pagetop