好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
「……ごめんね。せっかく、ご両親が呼んで下さったのに……」
おそらく、私のために、心づくしの持てなしを用意してくれているはず。
それを、無駄にしてしまった。
「そんなことは、気にするな。それに、こういう緊急時の対処法は教えてあるだろう、佐々木さん?」
私の気持ちを引き立たせようとしてくれるように、直也が、聞き覚えのあるビジネス口調で言う。
不器用で。
一度に二つ以上のことを頼まれると、あたふた慌ててしまってまともに仕事がこなせない新人OLだったころ。
直也は良くこういう口調で、厳しいけれど、的確な指示を出してくれた。
――緊急時の対処法。
『君だけじゃない。俺だって、一度に二つの事は出来ないんだ。
いいかい、一度にやろうと思ってはダメだ。
こう言う時は――』
七歳年上の『篠原先輩』がそう言って教えてくれたこと。
「……優先順位を考える?」
「そう、正解」
前方に視線を固定して、ハンドルを操る直也の横顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。
『今、一番大切なこと、一番にしなければいけないことを考えるんだ』
そうだった。
それが、
一番最初に、私が篠原直也から教わったこと。