好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
少しだけ伺い見るつもりが、バッチリと視線が捕まり、見事にピキンと体が固まってしまう。
伊藤君の黒い瞳に、まるで悪戯盛りの少年めいた愉快そうな光が揺れる。
キュッっと下がる目じりと、微かに上がる口角。
形作られる笑顔に、鼓動が早まる。
やだ、どうしよう、何か話さなきゃ!
こんな時こそ、お喋り好きの母が話題を振ってくれたら良さそうなモノなのに。
肝心のご本人様は、気を利かせたのかなんなのか、『お茶を入れてくるわね』と言って部屋を出ていったまま戻ってこず。
「え、っと、あのっ……」
私は、どっかんどっかんと暴れ出す心臓をどうにかなだめすかし、自力でこの状況を脱出するべくとにかく口を開いた。
が。
「天気もいいことだし、もし予定がないなら、今からどこかに出かけないか?」
モシ、ヨテイガナイナラ、イマカラ、ドコカニ――
デカケル?
は、はいっ!?
ニッコリと爽やかすぎる笑顔攻撃で半凍結状態の私脳細胞は、その爆弾発言で、完全に永久凍土と化した。