好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

――もしかして、


私は、まだ眠っていて、夢を見ているのかもしれない。


そうに違いない。


じゃなきゃ、こんな状況、ありえないっ!


あれよあれよと言う間に、話は進み。


なぜか至極上機嫌の母に玄関から送り出された私は、なんと、伊藤君の車の助手席に鎮座していた。


飾り気のない、


でも、清潔な車内には微かな柑橘系の香りが広がり、鼻腔を優しくくすぐる。


『ああ、良い香り』


なんて感じる余裕のない私は、金縛り状態で体をこわばらせたまま、ただ助手席にポツネンと収まっていた。


なに、何なの、この状態?


「じゃあ、どこに行こうか? 佐々木が行きたい所があれば、言ってくれ」


運転席の高い位置から降ってくるテノールに、思わず背筋がゾクゾクしてしまう。


鼓動はやたら早いし、手にはじんわりと汗がしみ出してくる。


きっと、顔なんか真っ赤になっているはず。


まともに顔を上げられない私は、膝の上でギュッと握りしめた自分の白くなった指先を見つめた。





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