好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

あまりに突然のことだったから、周りを見る余裕がなかったけど。


今日は、昨日の雨が嘘のように、澄み渡るような青空が広がっている。


遠くの空には、モクモクとした入道雲が、まるで子供の落書きみたいに積み重なっていて、


目の前に広がる青々とした田んぼでは、爽やかな夏の風に吹かれた稲穂が、実の入り始めた頭をユラユラと揺らしていた。


「良いお天気……」


体の力がスウッと抜けて、素直な感想が口を突いて出る。


「ああ、本当に良い天気だ」


優しく響く声に胸がいっぱいになって、思わず目を伏せた。


今日だけ。


今日、一日だけなら。


きっと、神様も、よそ見してくれるよね?



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