好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
それが。
どんなに自分勝手で都合の良い考えか、分かっているけど――。
「伊藤君。もし良ければ……」
「うん?」
「海が、見てみたいかな?」
「海か。そうだな、今日は海に行くには良い陽気だな――」
見上げた伊藤君の横顔に、私だけに向けられる笑みが浮かぶ。
たぶん、これは、夢。
目が覚めれば。
朝になれば、消えてしまう、儚い夢――。
それでも。
今だけでもいいから。
この残酷でも、幸せな夢の中にいたかった。