好きだと、言って。①~忘れえぬ人~


そろりと。


彼の横顔を見上げると、それに気付いた伊藤君が「うん?」と、首を傾げた。


私に向けられる、真っ直ぐな黒い瞳には、なんの陰りも見つからない。


「あの、ね……」


「うん?」


「伊藤君は……」


どういうつもりで、私を誘ったの?


一番聞きたくて、そして聞きたくない質問が、出所を失って私の胸でグルグルと渦を巻く。


そんなことを聞いて、どうするの?


聞いたからって、何かが変わるとでもいうの?


何も変わらない。


伊藤君は、私の親友の彼氏。


私は、伊藤君の彼女の親友。


そのポジションが、変わることなんかありえないんだから。

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