好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

それに。


そもそもが、特別深い意味なんか無いのかもしれないじゃない?


たまたま久しぶりに会った同級生を誘って、ドライブに来た。


それだけのこと。


そう、それだけのことよ。


自分に言い聞かせるように静かに目を閉じると、周りの賑やかな音が戻ってきた。


心地よい海風が、アップダウンの激しい心の熱を奪って鎮めていく。


「佐々木、気分でも悪いのか?」


「あ、ううん、違う違う!」


我知らず足が止まっていたようで、数歩先離れた所から、伊藤君の心配げな眼差しとセリフが降ってきて、ハッとした私は頭と右手ををブンブン振った。


やめやめ!


ぐだぐだ考えたって、なんになるの。


そうよ。


こんな機会、二度とないんだから。


今は、この瞬間を、大切にしよう。


密かな決意を胸に秘め、ニッコリと会心の笑みを浮かべる。


「私、お腹空いちゃった!」


ただ遠くから見ているだけだった、『あの頃の私』は、もう居ない。


本音と建て前を使い分ける。


私だって、このくらいの芸当が出来るような『大人』になったのだ。

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