好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

「あ、でも、伊藤君は、こんなんじゃまずかった?」


ホットドックを、モヒモヒ囓りながら質問したら、伊藤君はトウモロコシを豪快に囓りながら、不思議そうに目を瞬かせた。


「なんで? 俺も、こういうのけっこう好きだけど?」


「だって、プロのスポーツマンって、栄養管理も大変なんでしょ? こんなジャンク・フードでお昼をすませちゃったら、叱られない?」


「ああ。まあ、それなりにな。でも、大丈夫。叱られないよ」


私の『叱られない?』の言い回しが笑いのツボに入ったのか、伊藤君はおかしそうにクスクスと笑い出した。


それと連動して普段はつり加減の目尻が、キュッと下がる。


そのとたん。


鋭い感じが払拭されて、少年めいた表情がその顔に浮かんだ。


――ああ、この笑顔。


やんちゃ盛りの少年のような、屈託のないこの笑顔が、いっとう好きだった。


今も変わらない笑顔に、胸の奥が熱くなる。


ついでに、目頭も熱くなる。


ヤバっ……。


ここで泣いてみろ。


それこそ、挙動不審だ。


「でも、良かった」


「え?」


「元気になったみたいで、良かったよ」


「元気にって……?」


伊藤君の言っていることの意味がよく分からずに、私は眉を寄せた。

< 96 / 223 >

この作品をシェア

pagetop