好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
私、元気がなかった――ところなんて伊藤君に見られたことないよね?
元気がないのを知っているのは――。
「浩二がさ、大分心配してたんだ。ものずごく、落ち込んでいるみたいだってね」
え……?
浩二?
浩二だぁっ!?
「……伊藤君」
アイツのへらへら顔が脳裏を過ぎり、思わず声がワントーン低くなった。
「もしかして、私を誘うように、浩二に頼まれたりした?」
「ああ。気晴らしでもさせてくれないかって。俺も、練習がオフだったし、ちょうどよかったよ」
そう。
そういうことか。
「……ごめん。ちょっと、トイレに行ってくるね」
私は、ハンドバックをむんずと掴んで、ツカツカと公衆トイレに向かった。
もちろん。
トイレに入るためじゃない。