亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
元々敵同士だった三国間での平和協定など…今まで聞いたことも無いし、あまりにも非現実的過ぎて滑稽を通り越して呆れてしまう。
しかしながら実際、フェンネルは隣国デイファレトの王政復古に力を貸し、今現在は両国共々友好的な関係を築いている。書状を拒絶されても挫けず使者を何度も送ってくるその姿勢からして……フェンネルの女王は、本気なのだろう。
そしてデイファレトの若き王も、国造りを始め平和協定とやらに意欲的な姿勢を見せている。
そして三度目となる今回…バリアンは書状に対し何と返答するのか…と考えてみるが、バリアンが応じる筈もないだろう。…結果は火を見るよりも明らか。考えるだけ無駄だ。
分かっているが、未だにその返事をする気配の無いリイザに不躾な質問と承知で尋ねた。
…対するリイザの表情は、何ら変わらないように見える。紅色の鋭い瞳はまるで興味が無いとでもいうかの様に高い天井を見上げ、そのままウルガの視線に重ねてきたかと思えば……不意に、彼は玉座から腰を上げた。
主が短い階段を下りると見るや否や、ウルガとケインツェルは反射的にその場から下がり、主の道を空けるべく端に寄った。
口を閉じ、二人揃って深々と頭を下げる。
大理石を弾くリイザの単調な足音が端から端へ…ウルガの前をゆっくりと過ぎ去っていくのを聞いていると、そのすれ違いざま。
「追って沙汰を下す。少し待っていろ」
「…はっ」
この謁見の間に響き渡る足音が、次第に遠退いていく。リイザの姿が廊下の奥の暗闇へと消えようとする時…少し遅れて、リイザとは違う別の足音がウルガの前を通り過ぎた。
不思議に思い、ゆっくりと顔を上げたウルガの目線の先には…。
「………」
「―――」
十代半ば位の、背丈の低い少女の姿が一つ。足を止め、何の感情も帯びていない冷淡な瞳でウルガを見下ろしていた。
その見知った少女の瞳は、いつ見ても…美しい宝石の様だと思う。
細かな模様が浮かんだ、エメラルド色の瞳。
その少女の名は、ログ。
リイザというバリアン王に仕える、魔の者である。