亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
色白の肌は、その小さな顔以外の全てに隈無くびっしりと黒い模様の刺青が浮かんでいる。
深い緑の長髪は篝火の明かりを受け、木漏れ日にも似たエメラルド色の淡い反射光を足元に落としていた。
まだ子供のあどけなさが残る小柄な手には、先端に大きな魔石がはめ込まれた歪な杖が握り締められていた。
リイザの付き人、ログ=マ=カルタことログは、世間一般の魔の者同様に主人以外の者には沈黙を貫く。
このログも常に主のリイザからつかず離れずを守り、まるで空気の様に気配を消してそこにいる。
そのログが、何故か自分を見下ろしている。
時折主の元を離れてぼんやりとしている彼女だ。こうやって他人を見詰める事など珍しくもないことだが。
(………?)
見下ろしてくる緑の眼差しに、ウルガは違和感を覚えた。
彼女の瞳は、他人を映してはいても見ることはない。彼女が見るのは主のみ。その他は全て硝子玉に反射する景色の様なもの。
しかし今の彼女の瞳は…気のせいかもしれないが、ウルガを映し、そしてしっかりと見ている様に思えた。
互いの間に漂う奇妙な沈黙と違和感に、ウルガは訝しげに口を開こうとした。
…途端、空気さえも害する気がしてくる苛立つ声が、背後から飛び込んできた。
「おやおやどうされましたかログ様!もたもたしていらっしゃると陛下に置いてけぼりを食らってしまいますよ!…まぁ、色んな意味でいつも置いてけぼりの様なものでしょうがねぇ……おおっとこれは失敬!少々口が過ぎましたかねぇ!」
前にしているのは陛下の付き人だというのに、背後の陰険眼鏡は悪魔の如きにんまりとした笑みで実に不躾な言葉を散らかした。
…面白おかしそうに…何が失敬だ、とウルガは内心で本日何度目になるか分からない舌打ちをした。
ただでさえ無礼な真似だというのに、その内容はとてもじゃないが冗談で済ませられないものだ。
―――置いてけぼり、などと…ログ様になんて言葉を。
「…ケインツェル!」
忌々しい側近に振り返り、微かに戦慄く拳を上げようと立ち上がろうとするや否や…ほぼ同時に、真正面にいたログが歩き出した。
深い緑の長髪は篝火の明かりを受け、木漏れ日にも似たエメラルド色の淡い反射光を足元に落としていた。
まだ子供のあどけなさが残る小柄な手には、先端に大きな魔石がはめ込まれた歪な杖が握り締められていた。
リイザの付き人、ログ=マ=カルタことログは、世間一般の魔の者同様に主人以外の者には沈黙を貫く。
このログも常に主のリイザからつかず離れずを守り、まるで空気の様に気配を消してそこにいる。
そのログが、何故か自分を見下ろしている。
時折主の元を離れてぼんやりとしている彼女だ。こうやって他人を見詰める事など珍しくもないことだが。
(………?)
見下ろしてくる緑の眼差しに、ウルガは違和感を覚えた。
彼女の瞳は、他人を映してはいても見ることはない。彼女が見るのは主のみ。その他は全て硝子玉に反射する景色の様なもの。
しかし今の彼女の瞳は…気のせいかもしれないが、ウルガを映し、そしてしっかりと見ている様に思えた。
互いの間に漂う奇妙な沈黙と違和感に、ウルガは訝しげに口を開こうとした。
…途端、空気さえも害する気がしてくる苛立つ声が、背後から飛び込んできた。
「おやおやどうされましたかログ様!もたもたしていらっしゃると陛下に置いてけぼりを食らってしまいますよ!…まぁ、色んな意味でいつも置いてけぼりの様なものでしょうがねぇ……おおっとこれは失敬!少々口が過ぎましたかねぇ!」
前にしているのは陛下の付き人だというのに、背後の陰険眼鏡は悪魔の如きにんまりとした笑みで実に不躾な言葉を散らかした。
…面白おかしそうに…何が失敬だ、とウルガは内心で本日何度目になるか分からない舌打ちをした。
ただでさえ無礼な真似だというのに、その内容はとてもじゃないが冗談で済ませられないものだ。
―――置いてけぼり、などと…ログ様になんて言葉を。
「…ケインツェル!」
忌々しい側近に振り返り、微かに戦慄く拳を上げようと立ち上がろうとするや否や…ほぼ同時に、真正面にいたログが歩き出した。