亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
大きな窓からは、温かな春の陽光が差し込んでいた。
のんびりとした静かな時間。時折聞こえてくる小鳥の囀りだけが耳をくすぐるぐらいで、昼下がりの外はのどかなものである。
淡い日光と生温い気温の下にいれば、自然とまどろんでしまうのは当然の反応だろう。
出来ればこの魅惑的な誘いに従って意識を離してしまいたいものだが。
如何せん。
立場上、自分には春を満喫する暇などある筈が無いし、満喫するつもりもない。
加えて言えば、今は極めて重要な会議中なのだから睡魔の訪れなど以ての外。
以ての外、なのだから。
「普通に堂々と寝るんじゃねえよ!」
突っ込み役になったつもりは無いのだが、日常生活における既に習慣とも化した行動が、彼を立派な突っ込み役に育ててしまったらしい。
しかし悲しいかな。当の本人は外野が見なす己のキャラクターの位置付けに、全く気がついていない。
突っ込んでいる、突っ込んでいる…と彼の苦労性を内心で哀れむ周囲の意思など露知らず…隣で寝息を立てる同僚に向かって、リストは拳骨を食らわせた。
フェンネル国家騎士団の高等身分にあたる、総団長補佐兼特務師団長のリスト。
短い黒髪から覗く怒気を露わにした紫の瞳は、眉間の深いしわも合わさってより一層鋭く光っている。
少々熱血気のある根っからの真面目人間な彼は、人並み以上に短気な点が困りどころだが、幼い頃から騎士団の幹部に身をおいているため周りからの信頼も厚い。
六年戦争を越え、三年前のデイファレトの王政復古を経た今。この年で、リストはもう十八になる。
ゴン、という鈍い音が辺りに響き渡ると同時に、強烈なダメージを受けたイブが脳天を抱えて痛みに呻いた。
座席の上でくねくねと芋虫の様に身体を捩り、痛みの大きさを身体で表現している。
「……いっ……たあああぁぁーい!?脳味噌出た!グロいの出た!滅茶苦茶、滅茶苦茶、滅茶苦茶痛い!」
「そうか痛いか、痛いだろう。…痛くしたんだからな!」