亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
師団長は手にしたチェスの駒を、ある意味まっさらな地図の上に静かに置いていく。

「感知された場所は、複数あります。…一つはここ…城のある場所です」

緻密に描かれた城の印の上に、軽い音色を立てて駒が着々する。イブの寝ぼけ眼が、ぼんやりと師団長の手を追う。

「…次はここ…大陸の南側……そして東…」






地図上に淡々と置かれていく駒の群れ。その数は十にも及ばないが…見たところ、それらは乱立している訳では無いようだった。
師団長の手がようやく止まると、眉間にしわを寄せたリストが円卓に身を乗り出して真上から地図を覗き込む。



……置き終えた駒の並びに、リストは小首を傾げる。


「………円……半円じゃないか…これ?」


見下ろす先の駒の列は歪ではあるものの……バリアンの大陸の中に、半円を描いている様な並びに思えた。
国の真ん中を中心に、駒が歪な半円を浮かび上がらせている。

「……最初の感知は一年前でした。威力自体は小さなものでしたし、それ以降は何の感知も無かったので記録する必要は無いと思われたのですが………執務管長とアレクセイ様が、記録を命じられたので…」

「………あの二人が無視しないなら、とりあえず怪しいな…」

魔の者がいないフェンネルでは、国家騎士団の戦力として飼われている魔獣、もしくはダリルが魔力の感知を行っている。場所だけの情報ならば魔獣で充分だが、ダリルの感知能力の方がより正確なため、彼が目を止めたならばそれは残しておくべき情報だ。

「はい…それで観測を続けていたのですが…最初の感知から一月後、同じ様な魔力が、今度は違う場所で感知されました。…以降、不定期ですが大小異なる魔力が至る所で感知されています。今現在もそれは感知されております…一番新しいのは、ちょうど一週間前くらいのものです。特務師団長のおっしゃるとおり、別段不可解な事ではないと思っていたのですが………こうやって軌跡を地図で見ると……この通り、半円を描いている…様に見えたので…」

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