亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

感知される箇所はまばらだが、地図にその軌跡を記せばそれは何かの形を描こうとしているようだった。バリアンの大陸の中に、歪で大きな半円が一つ。
…偶然、だろうか?しかし偶然で終わらせるにはあまりにもその形が不可解であるし、何か意味があるのだとしても今の段階では何も分からないのが現状だ。


「これじゃさっぱりだしさ…とりあえず、しばらくはもうちょい様子見してたら?……これが本当に円か、それか別の何かの形になりそうって分かってからじゃないとねー」

円卓に顎を置き、イブはだらしない体勢で地図を見るが、そんな彼女の言葉も最もだ。ここは今しばらく様子を伺うしかないだろう。


「…まぁ、これが例え円になったとしても……結局は何なのか分かりませんが…」

「それもそうだが…」

考え込む師団長を一瞥し、リストは目下の地図を再度見下ろした。歪な半円を刻むチェスの駒にそっと触れながら…リストは小さな声で呟く。






「………お前はどう思う?」

囁き声に近いリストの呟きを聞き取れたのは、隣で相変わらず眠そうに頭を円卓に置いているイブだけだった。
一見、またうたた寝をしているかの様に見えるが……円卓の上に散らばった髪の隙間からは、大きく見開いたイブの瞳が、じっと地図上の駒を凝視していた。




「……………どうって言ったってさー…。………………とりあえず……………近頃、悪寒がする…」

「………ああ……………俺もだ…」


周りにはほとんど聞こえないくらいの小さな声が、二人の間で静かに交わされる。




「……デイファレトに潜伏した時の…ノアの魔力を感じた時と…似てないか?」

「………似ているようで…違うって感じ。………なんて言うかこれは………もっと、嫌ぁな感じ…」

「………」

「とにかく………用心かなー…」

「……言われなくても…」










普通の寒気とは違う、妙に後味の悪い嫌な悪寒がする。それは時々だが、一向に止む気配が無い。
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