亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

いくら夜とはいえ、人の多い首都だ。敵でなくとも民間人の一人くらいには目撃されてもおかしくないのだが…それさえも無い。

…一体、どんな忍び方をすればそこまで透明人間の如き行動が出来るのか。

以前、ライは直球でロキに尋ねた事があったが、おちょくられたのか…「特別な訓練を受けてるから」と、答えを濁されてしまった。

…特別な訓練とは、何なのだろう。とにかく存在感を無にする事だろうか。何だそれ。

「そうだな…それじゃあ、三日くらい時間をくれよ。三日後には、良い土産を持ってきてやるからよ」

「言っておくが、俺は朗報しか期待していないからな」

苦笑を浮かべるレヴィに軽く敬礼をして見せると、ロキはさっさと出入り口に向かって踵を返した。
下準備のために、今夜は早々に部下達の待つ隠れ家へと帰るらしい。
背を向けたまま、こちらに向かってヒラヒラと片手を振って遠ざかっていくシルエットを眺めていると、直後…やはり心配で堪らないのか、リディアがその背中を追いかけていった。


ポツンと残されたサナは、今まで自分の髪を梳いていた櫛をぼんやりと眺め、ゆっくりと口に運ぼうとした………が、寸前のところでライがそれを阻止した。








「…ロキ」

サラサラと流れる単調な砂の音の中で、自分を呼ぶ聞き慣れた少女の声を耳にした。
声の主に振り返れば、案の定明らかに不安げな表情を浮かべるリディアの姿があった。

呼び止めたはいいが、リディアはそれ以上何も言ってこない。だが、この暗がりの中で俯く彼女の言いたいことくらい、もう長い付き合いだ…痛いほど分かる。

リディアという娘は人見知りが激しいくせに、酷く心配性な変わった少女なのだ。


しばし互いに無言のままだったが、あまりにも不器用なリディアの態度にロキは笑みを漏らした。

「…毎度言ってるが……そんなに心配するな。ちょっくら敵さんの懐を漁りに行くだけなんだからよ」

「………うん」

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