亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
視界の端から端へ。
空を裂く微かな音色を奏でながら、一筋の青白い光線は目にも留まらぬ速さで過ぎ去っていった。
ダイヤモンドダストの様な細かな光が、その軌跡に尾を引いていく。
キラキラと輝きながら、重力に従ってゆっくりと地に落ちていくそれらに手を伸ばせば…感じるのはひんやりとした儚げな冷気。
冷たさを指先に残して、あっと言う間に消えてしまった光を、何となく眺めていれば…。
「―――ドール、手を引っ込めて。………危ないよ…」
…と、柔らかく落ち着いたアルト声の静かな忠告が、ドールの意識をすくい上げた。
返事はせず、言われた通りに伸ばしていた手を引っ込めれば、ビィンッ…という高い音色が鳴り響く。
途端に第二の青白い光線…細い氷の矢が、ドールの目の前を同様に飛来していった。
矢が飛んでいった先を見れば、その先には木に立てかけられた小さな的がポツンと一つ。
刺さった氷の矢は自然に消えてしまうのだが……的のど真ん中にのみ穴が空いている事から、この弓士の腕が相当なものであることが分かる。
第二の矢も見事に的の真ん中を貫いたのを確認すると、ドールは弓を射た人物の元に歩み寄る。三度目を試みるべく、ゆっくりと弓を構え始めるその人の動作を傍から見詰めながら、ドールは息を吐いた。
「…何度やっても一緒じゃないの?……どうせ全部真ん中に命中するんだから…」
「………練習しないと、落ち着かないから…」
一旦弓の構えを止めると、青銀髪のなんとも綺麗な青年……現デイファレト王であるレトは、困った様な微笑を浮かべて言った。
城の中庭にあたる場所は、三年前までは凍てついた荒れ地が広がっていたのだが…隣国の緑の国程では無いにしろ、今ではすっかり草花で飾られている。
中庭の端には、ステンドグラスで覆われた小さなアーチ型の屋根があり、その下にある大きな切り株に座って一日中ぼんやりと日向ぼっこをするのが、レトのお気に入りだ。