亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

ドールは心地良い木漏れ日の下へと移動し、その切り株に腰掛けて弓の練習をするレトを眺める。

静かな動作でレトが構えるのは、悠に二メートルを越す青色を帯びた長い弓だ。
一見、その弦に矢の姿は何処にも無いのだが…。弦を限界まで引くと同時に何も無い空気中から細かな光が集まりだし、それはすぐさま氷の矢に変化するのだ。

美しく不可思議な青い弓は、このデイファレトにある三大世界樹の一つ…アルテミスの枝から生み出される特殊な弓で、誰もが持てる代物ではない。
一人前と認められた狩人にのみ扱うことを許される、狩人の証でもある。


元々レトは、王族でも無ければ貴族階級でもない、平民よりも遥かに下の最下級身分として忌み嫌われてきた狩人の生まれである。
本の三年前までは雪国を放浪していたただの子供が、何の因果が…類を見ない大出世を経て一国の王となってからというもの、衣住食を含めたレトの身の回りはすっかり変わってしまった。


行く宛の無い放浪生活から、行動範囲は城という生まれて初めてにして大層な家、一択へ。
野生の獣や、遭遇すれば命を懸けた死闘となる同胞達に対する常に抱いていた警戒心も、危険性も、無用な心配に。

まず何よりも、王となってからは大体いつ何時でも傍にいる風変わりな魔の者…ノアの存在が一番大きかったのかもしれない。
約千年以上も歴代のデイファレト王に仕えてきたノアだ。
一から十まで何も知らないレトに、城での生活や今後の王としての仕事の全てを教えてくれたため混乱は少なかった。

革命的な王政復古後のデイファレトは、それまでの凍てつく冬季が少しずつ和らいでいくにつれて、閉鎖的だった国民の多くが徐々に国家再興へ意欲的な姿勢を見せるようになった。
永遠の冬季という災いは、どうやら気候だけの問題では無かったらしい。


無知な少年王の、一からの国造り。




当初は不安で不安で仕方がなかったレトだが、ノアの支えによりなんとか国造りは着実に出来上がっていった。
< 187 / 341 >

この作品をシェア

pagetop