亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
人を殺したのは、初めてではない。
過去にあったバリアン兵士との攻防。赤槍がまだ存在し、一戦力として自分も参戦していた頃、ガーラに乗って敵を何人も殺していた。
しかしよく考えれば…それは戦場の中での、無我夢中の殺戮であって…。正義感だとか、義務感だとか…そういった赤槍の一員としての戦意で突き動かされていたあの時とは、違う気がした。
あれが戦場という空気に取り憑かれた、間接的な殺人だとするならば……今、今行った殺人は…相手が死んでいくことが肌身で分かる、生々しい…直接的なものに思えて…。
(…何で今になって……怖いとか思うんだろう…)
人を殺したことに、殺意を抱いた自分に、全身が震える。
ああ、僕は本当の意味で人を殺したのだ…と、今になって自覚したのだ。自分の意思で、私怨で、人の命を奪ったのだと。
そんな醜い衝動が、怖い。震えが一向に止まらない手をもう一方の手で押さえつけるが、止まることは無かった。
冷たくなった唇を噛み締め、何かに耐えるようにぎゅっと瞼を閉じるライに、恐怖は容赦なく彼に追い討ちをかけたいのだろうか。
「――…この…ガキめ…………畜、生…!」
ライの耳に、事切れたかと思われた男の嗄れた声がざわざわと入り込むや否や、ライは思わず横たわる男から飛びのいた。
肩で息をしながらじっと凝視してくるライの瞳に、恐怖に怯える弱者の色が滲んでいるのが分かったのか…血を吐きながら憎々しげに悪態を吐いていたバリアン兵士は、途端ににやりと不敵な笑みを浮かべた。
「…何が…おかしい…」
死に際の男の不気味な態度に怪訝な表情で呟くと、男は途切れ途切れの笑い声を上げた。
「…ハ……ハハハッ……馬鹿じゃ、ねえの、か…?…人の、身体…に……散々穴を、空け、て、おいて……ビクビク、しやが……て…」
「……」
「笑っち、まうぜ……三、槍…っでも…所詮は…やっぱり……ガキ……甘ったれた、ガキ…じゃねえか…」
「……」
「…三槍も…終わっ…て、るぜ……覚悟も、出来てね、え……これくらいで…震えち、まう……奴が……いる、ならな……ハ、ハハハッ!」
「……うるさい」
「…戦争の、意味も、分かってねぇ様な……ガキだ…………三槍は……腰抜け、共の……ただの、烏合の衆…………正義面した…自己、満足の…連中だな…!」
「う、るさい…!…違う!」
男の止まない下卑た笑い声に、ライはとうとう堪えきれなくなった怒りを口にした。震える声で、目下の男を怒鳴りつける。
「…僕等は…僕等三槍は……お前等バリアン国家から、民を救うために…戦っているんだ!…………身分や財を傘に、民を物の様に扱って…簡単に殺して…殺戮しか、戦争しか生まないお前等とは…違う…!僕等は、お前等とは、違…!」
「何言って、やがる…糞ガキが…………よく自分の、手を…見てみろ…」