亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
散々牙や爪を立てた後だったのか、太い鎖の至る個所が針金の様に削られており、少し力を込めて引っ張っただけでそれはあっけなく砂地に落ちた。
縛りを解かれた小汚い木戸。後はもうその口を開くだけだ。
ライは軋む取っ手の部分にゆっくりと手を掛けた……その途端だった。
無我夢中で荷車に群がっていた砂喰い達の動きが……一斉に、止まったのだ。
突然、物音一つしなくなった奇妙な空間に、ライは無言で冷や汗を流した。
……確認せずとも分かる。
荷車の表にいる奴も、天井をよじ登っていた奴も、足元で砂を撒き散らしていた奴も、本の数十センチ真横で木戸の縁を引っ掻いていた奴も…………皆、皆…ライを見ている。
凝視している。穴が空くほどに。
砂喰いの群れの全ての視線が……自分一人に、向けられている。
数えきれないくらいの視線が、痛い。
特に真横にいる砂喰いの突き刺す様な眼差しが一番怖い。
…ライは一瞬、死を覚悟した。
今この数の砂喰いに襲われれば、一溜まりも無い。逃げられる確率は極めてゼロに近い。
…恐怖や緊張感や焦燥感やら。色んなものにあおられてバクバクと激しく鳴りだす心臓の鼓動がうるさい。
ごくりと溜まった唾を呑みこむ。目の前の木戸から目を離せぬまま、一歩も、微動だにしないまま……突き刺さる視線の集中業火にひたすら耐えた。
だが、それも長くは持続しない。
こめかみ辺りを伝って首筋に流れていく一筋の汗の、妙な冷たさを感じながら……ライは静かに目を瞑った。
……どうなるのか分からないこの身の未来に、諦めにも似た感情がライに染みわたってきた、その時だった。