亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
嗚咽混じりの、自分でも聞いたことのない情けない声が。
噛み殺していた筈なのに……サナを前にしていながら、ライは彼女の手を握りしめて、ただ泣き崩れた。
今まで堪えてきたものが溢れ出してしまったかのように、涙は止まらなかった。
ボロボロと落ちる涙が目下の自分の手を濡らし、彼女の指先に零れおちても……サナは何も言わず、じっとライを見詰めていた。彼女の作る沈黙には、何も意味など無いのかもしれない。しかし、その静けさに……今は救われている様な気がした。
仲間たちには見せられない自分。強がっているだけで本当は臆病で、独りでも生きていけると決意したのに他人のぬくもりを求めていて。
人目もはばからず、年甲斐もなく、子供の様に泣き続ける不格好な自分を、彼女は許してくれる。彼女にしか、見せられない。
サナは、そんな……。
「――ライ君…!」
何処か緊迫したユアンの声が冷たい空気を裂き、ライが顔を上げると同時に…静まった夜の砂漠には似つかわしくない光が、ライの横顔を照らした。
…日が昇るには早すぎる。近くで火を焚いてなどいない。こんな深い漆黒の夜に、眩い光などある筈が無いのに……信じがたいことだが、一同が大きく見開いた視線の先に、大きな光の筋…光柱が闇夜を照らしながら忽然と現れていた。
大きさは数十メートルと計り知れない。しかもそれはライとサナのすぐ傍……先程息絶えたバリアン兵士の遺体の辺りから、星明かりのある天に向かって真っ直ぐと伸びているではないか。煌々と輝くそれに最初こそ呆気にとられたものの、その特徴に覚えがあると分かるや否や、ライはその場でゆっくりと立ち上がった。
夜を照らし続ける巨大な光柱を見上げながら、ライは怪訝な表情で呟く。
「――……赤い……光。……柱の様な……蜃気楼……」
眩しい光柱の中に、ぼんやりとだが……見たこともない巨大な柱の様なものが蜃気楼の様に浮かび上がっていた。それは赤を帯びていて、まるで燃える柱がそこに立っているかの様だった。
ここ最近で頻繁に耳にしていた、夜更けから明け方にかけて目撃されるという赤い柱の蜃気楼の話。
聞いていた限りでは想像も付かなかったが……それは事実で、そして目の前に佇むこの光柱こそがそれなのだとライは確信した。
ぼんやりと光を見上げるライの傍に歩み寄ったサナは、その巨大な存在に目もくれず、何故か彼女の興味を引いたのは、その光柱の真下に横たわる兵士の遺体……否、遺体の衣服から転がり出たと思われる小さな腕輪だった。
思わずその腕輪に伸ばそうとしたサナの手を、いつの間にか傍に来ていたユアンがやんわりと掴んで引き戻した。
「……いけませんよ、サナ君。勝手に触れては…」
「……先生、それは…」
フォトを背中に抱えたユアンは、高々と伸びる光柱を見上げ、そして目下の遺体…すぐ脇に転がる腕輪に視線を落とし、ため息混じりに口を開いた。