亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
「……ライ君も、あれにむやみに触れてはいけませんよ。……あれは恐らく…普通に付けていればただの装飾品ですが…使い様によっては、有害でしかないものです」
「……どういうことです…?」
「……とりあえず、詳しい話は後にしましょう……。今はこの子を安静にさせなければなりませんからねぇ…。それに、こんな所に長居は無用ですよ。そう時間も立たぬ内に、血肉の臭いを嗅ぎつけた砂喰いの群れが来るでしょうから」
ここらの死体と巻き添えに食われるのは御免です、と最後に言い終えるや否や、ユアンはその場から踵を返して荷物を取りに行った。
砂喰いの足は早い。加えてこの光柱が目印にもなるのだから、ユアンの言う通り長居は無用……一刻も早く立ち去るべきだろう。
「……サナ、おいで。…早く帰ろう」
未だぼんやりと砂地に転がる腕輪を見詰めていたサナの手を引き、ライは光柱に背を向けた。
赤い蜃気楼の光は、まだその輝きを失うどころか、弱める気配もない。
美しい赤を帯びたそれは綺麗だと言えばそうかもしれないが…ライの目には、それはとにかく不気味で、得体の知れない妖しい輝きに見えてならなかった。
ただただ、気味が悪い。
背中を煌々と照らしてくる赤い光が視界に入るのも嫌に思えて、遠ざかるライの足は自然と早くなる。サナを引っ張る手に、無意識に力が入る。
そんな僕の不快感だとか、恐怖に似た感情が伝わったのかは分からないが。
繋いだ手を、サナの小さな手も本の少しだけ、握り返してくれた様な気がした。
風の音に混じって、まだまだ遠いが砂地を削る音が微かに聞こえてくる。
恐らく、砂喰いの群れの足音だろう。
夜が明ければ、ここは何も無くなる。
最初から何も、無かったかの様に。