亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
最近は専ら剣より箒や工具を持ち、訓練よりも爆発音がした方へと素早く走っていく姿がよく目撃されている。
空中を飛ぶ筈の無い花瓶や絵画といった備品をゴールキーパー顔負けの動きでキャッチし、怒号と共に何処からか吹き飛ばされてきたイブ、もしくはリストの背後に素早く回り込み、ブチキレる寸前の息も荒々しい上司達の腰のホルダーからそっとスリ顔負けの俊敏さで剣を回収する。
城内の人間に喧嘩の被害が及ばぬよう彼らのキリングフィールドを外へ誘導していき、騒々しい元凶が城外へ出たのを確認するとすぐさま城の扉を閉じ、二人でゴミ塵の回収と大破した床や壁の工事にあたる。毎日の様に城内の何処かが何かしら爆発したような状態になるのだが、今まで街から大工など呼んだ事が無い。本当に。
とにかくあらゆる面で精鋭と影で名高い二人は、今日も何かしらの騒動が起こらぬ前に急ぎ先回りをすべく、数分前に知らされた唐突な緊急会議招集にどの兵士たちよりも迅速に応えて先を急いでいた。
緊急会議招集に応え、同じように慌ただしい様子で着替えを済ませて来たらしい他の兵士達の姿がちらほらと廊下に現れ始めるのを一瞥しつつ、隊服の襟を正し終えた二人はぽつりぽつりと言葉を交わす。
「緊急会議の内容はずばり・・・まあ憶測のぎりぎり範囲内の事だと自分は踏んでいる。何しろ緊急だからな。それほどの事態だ」
「リオさんの憶測が一般人の守備範囲を超えてるので何とも言えませんけどね。あんたと違って頭の足りない俺にもそんなことくらい分かってるつもりですよ」
急いで廊下を走ってきた兵士達は、前を歩く二人の師団長の会話に何気なく耳を傾けていたが、どういった内容の会話なのか分からず当人たちは揃って首を傾げている。
だが師団長二人を追い越して進むわけにもいかず、とりあえず後ろにつく形となって歩き続ける。
そんな兵士達の困惑気味な様子など露知らず、この二人はこの二人にしか分からない相変わらず謎の会話を発展させていた。
「緊急会議で何を言われるのかは後のお楽しみだが…それに動じて焦燥感に駆られ、重い責任感に慌てるのも、兵士として情けない話だが、事実そうなるのも憶測の範囲内にある」
「へいへい」
「今後の陛下の御考え次第だが…エドガー師団長、我々は命じられる任務の裏側で、それ以上に自主的に働く必要が出てくるだろう。何故ならば…」
「陛下を含め、主要幹部の大多数が内部に目を向けられなくなるから…つーことでしょうかリオさん。つまり前列で道を灯す明かりが見えなくなった事態に備え…俺らが後ろをきっちりと固めておかなければならない…ってことで解釈間違ってないっすかリオさん」
「かつては敵同士だったとはいえ、さすが戦場で経験を積んできただけあるなエドガー師団長。頭が足りないと言っているのは嘘で君は能ある鷹の一羽だろう」
「ただの慣れっすよ。そういう予想外の事態に遭遇した事が無駄に多いもんでね。だからついついあんたみたいに先の事態を見越して、苦労しないように楽になる方法を探すくせが付いてるだけっすよ」
「なるほど。鷹は鷹でも要領の良い狩りをする一羽というわけだ。それも能に入ると自分は思うがな。…話がずれたな。単刀直入に言おう」
「へいへい」
「……早い内に、我々は自分たちで予防線を張っておく。いつ何時、あらゆる角度からでも対応出来る様に…。与えられた責務全てを全うするのが我々の仕事ではない。それ以上の働きをすることだ。そうでなければ…陛下をお守りすることなど出来ない」
「兵士は盤上の駒じゃない。采杯を下す大将の命令に従うだけなら、ただの飼い犬だ。俺達は犬じゃねえ」
「自分の憶測が当たっているならば…そう。恐らくバリアンは…」
空中を飛ぶ筈の無い花瓶や絵画といった備品をゴールキーパー顔負けの動きでキャッチし、怒号と共に何処からか吹き飛ばされてきたイブ、もしくはリストの背後に素早く回り込み、ブチキレる寸前の息も荒々しい上司達の腰のホルダーからそっとスリ顔負けの俊敏さで剣を回収する。
城内の人間に喧嘩の被害が及ばぬよう彼らのキリングフィールドを外へ誘導していき、騒々しい元凶が城外へ出たのを確認するとすぐさま城の扉を閉じ、二人でゴミ塵の回収と大破した床や壁の工事にあたる。毎日の様に城内の何処かが何かしら爆発したような状態になるのだが、今まで街から大工など呼んだ事が無い。本当に。
とにかくあらゆる面で精鋭と影で名高い二人は、今日も何かしらの騒動が起こらぬ前に急ぎ先回りをすべく、数分前に知らされた唐突な緊急会議招集にどの兵士たちよりも迅速に応えて先を急いでいた。
緊急会議招集に応え、同じように慌ただしい様子で着替えを済ませて来たらしい他の兵士達の姿がちらほらと廊下に現れ始めるのを一瞥しつつ、隊服の襟を正し終えた二人はぽつりぽつりと言葉を交わす。
「緊急会議の内容はずばり・・・まあ憶測のぎりぎり範囲内の事だと自分は踏んでいる。何しろ緊急だからな。それほどの事態だ」
「リオさんの憶測が一般人の守備範囲を超えてるので何とも言えませんけどね。あんたと違って頭の足りない俺にもそんなことくらい分かってるつもりですよ」
急いで廊下を走ってきた兵士達は、前を歩く二人の師団長の会話に何気なく耳を傾けていたが、どういった内容の会話なのか分からず当人たちは揃って首を傾げている。
だが師団長二人を追い越して進むわけにもいかず、とりあえず後ろにつく形となって歩き続ける。
そんな兵士達の困惑気味な様子など露知らず、この二人はこの二人にしか分からない相変わらず謎の会話を発展させていた。
「緊急会議で何を言われるのかは後のお楽しみだが…それに動じて焦燥感に駆られ、重い責任感に慌てるのも、兵士として情けない話だが、事実そうなるのも憶測の範囲内にある」
「へいへい」
「今後の陛下の御考え次第だが…エドガー師団長、我々は命じられる任務の裏側で、それ以上に自主的に働く必要が出てくるだろう。何故ならば…」
「陛下を含め、主要幹部の大多数が内部に目を向けられなくなるから…つーことでしょうかリオさん。つまり前列で道を灯す明かりが見えなくなった事態に備え…俺らが後ろをきっちりと固めておかなければならない…ってことで解釈間違ってないっすかリオさん」
「かつては敵同士だったとはいえ、さすが戦場で経験を積んできただけあるなエドガー師団長。頭が足りないと言っているのは嘘で君は能ある鷹の一羽だろう」
「ただの慣れっすよ。そういう予想外の事態に遭遇した事が無駄に多いもんでね。だからついついあんたみたいに先の事態を見越して、苦労しないように楽になる方法を探すくせが付いてるだけっすよ」
「なるほど。鷹は鷹でも要領の良い狩りをする一羽というわけだ。それも能に入ると自分は思うがな。…話がずれたな。単刀直入に言おう」
「へいへい」
「……早い内に、我々は自分たちで予防線を張っておく。いつ何時、あらゆる角度からでも対応出来る様に…。与えられた責務全てを全うするのが我々の仕事ではない。それ以上の働きをすることだ。そうでなければ…陛下をお守りすることなど出来ない」
「兵士は盤上の駒じゃない。采杯を下す大将の命令に従うだけなら、ただの飼い犬だ。俺達は犬じゃねえ」
「自分の憶測が当たっているならば…そう。恐らくバリアンは…」