亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
埃が籠もったその中は、ごちゃごちゃと木箱が塔を形成している様な予想とは違い…スペースばかりを無駄に積んでいるだけの、酷く殺風景なものだった。
狭い空間の四隅には、用途の分からない布やロープが置かれている。
足元に転がる鎖や手枷を見てピンときたが……恐らく、この荷車は奴隷運搬用の荷車だったのだろう。
どこからか連れ去ってきた女子供を、奴隷として売買するのだ。バリアン国家もその売買に関わっているとは聞いていたが…実際に奴隷運搬用の荷車を目にするのは初めてだった。
見渡す限り、武器などの物騒なものは見当たらない。
奥にある木箱に近寄って中を覗いたが、それは空だった。
……荷車のくせに何も積んでいないなんて…と、ライは首を傾げる。
拾得物は特に無し…と踵を返して荷車から降りようとした途端。
―――ガタリ、と……木箱の後ろから、物音が鳴り響いた。
(―――…?)
振り返りざま、咄嗟に腰のダガ―を抜いてライは身構えた。
背中から差し込む限られた光源を頼りに、物音の発生場所に目を向ける。
…するとぼんやりとだが、木箱の後ろ側には僅かな隙間があった。…人一人、中型の獣一頭くらいならばなんとか身を潜めるくらいのスペースである。
鋭いダガ―の切っ先を向けたまま、じりじりとライは近寄り……邪魔な木箱を脇に向かって蹴り上げた。
盛大な物音を立てて転がる木箱の背後にあったのは、大きなボロ布の塊。
そしてそれは不自然な膨らみを形成している。
「……出て来い」
そこに誰か、もしくは何かが隠れているのが分かると、ライは警戒を解かぬままに低い声で叫んだ。
それが危険かは分からないが、用心するのに越したことは無い。
一定の距離を保ったまま、いつ襲われても対応出来る様に臨戦体勢を取り続ける。
呼びかけに応じないそれに、試しにもう一度声をかけてみたが…やはり正面のそれは姿を現す気配が無い。
ゆっくりと規則的なリズムで上下に動いているのを見下ろしながら、痺れを切らしたライは布の端を指先で掴んだ。