亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
たくさんの視線が集中しているのは、城がそびえ立つ丘への通路となる、巨大な城門前だった。
首都と城を隔てるそれは高さ五メートル近くある鉄壁の門で、一切の装飾が施されていない鉄壁である。門前にはいつもバリアン兵士が数人微動だにせず立っており、首都の人間に対して人っ子一人通すものかと言わんばかりの威圧感を放っている。

…実際、国民のほとんどはその門を跨ぐ事など死ぬまで無いのだが。


そして今日、ただでさえ警備の目が厳しい城門前は、いつもに増して更に厳重な構えを取っていた。警備にあたる兵士の数は倍以上。どの兵士も既に鞘からナイフを抜いた臨戦体勢で、辺りに睨みをきかせている。
……これはただ事ではない。

一体何事かと思えば、城門前に見えるのはバリアン兵士だけではなく……そんな彼等と対峙する様に佇んでいる者達がいるではないか。

バリアンの人間には見慣れない白い肌に、その身に纏う白と緑を基調とした珍しい軍服が、彼等が余所者であることを物語っていた。
緑の軍服といえば……と、見物する多くの野次馬達は余所者の正体を見抜いている。


南東の大陸にある隣国。
―――第三大国フェンネルだ。


赤と緑の戦士が、揃って城門前に佇んでいる。……そのなんとも奇妙な光景に、人々の目も興味も釘付けだ。
双方の異質な集団は何か言葉を交わす訳でもなく、自分から近付こうともせず……だが互いに無言で睨みあいながら、沈黙を守っている。目を皿の様にして見れば、彼等の視線の間に小さくとも熱い火花が散っているのが見えるかもしれない。


殺気に似た空気さえ漂わせているその場。いつどちらかが刃を向けてもおかしくない状態だ。




「使者の代表は、とっくに入城しているらしい」

「……恐らく、また書状だろうさ。平和協定のだろうが……バリアンは首を縦に振らないらしい」

< 40 / 341 >

この作品をシェア

pagetop