亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
食欲で動いている彼等だが、基本的に身に危険を及ぼす様な人間の武器には近寄ろうとはしないのだ。
そんな砂食いが自分達から武器運搬の荷車を襲う筈が無いし、何の得も無い。

まだ食料となる奴隷を乗せた荷車を襲ったと考える方が納得がいく。


「以前にも奴隷を積んだ荷車を見たことがありました。今回の襲撃にあった荷車の中も似たような内装だったので……僕は奴隷運搬かと思った次第です」

「まぁ実際、開けて見てみれば武器なんか一つも無く……あったのは裸の娘っ子独りで、お持ち帰りしてきちゃったと」

「あの、いい加減怒りますよ」


笑いを堪えるロキをじとりと睨み付けると、ライは深い溜め息を吐いた。先程から、拾ってきたティーラの子猫がご飯を食べ終えたらしく、隣りで何度もげっぷをしている。


「…なら…こうは考えられないか」

すり寄ってくる子猫を軽く払いのけ、やはりいつもの鋭い眼光でレヴィは低い声音で呟いた。

中央で静かに燃え上がる焚き火から、木のはぜる音色が鳴り響いた。






「運んでいたのが奴隷ではなく………本当に、武器だったとすれば?」

「………は…」

一瞬、意味が解せずぽかんと呆けるライの隣りで、それまで笑っていたロキが急に眉をひそめた。黙りを決め込んで瞑想に耽るオルディオは、やはり何も反応しない。


不意に訪れた沈黙に、ライは恐る恐る口を開く。
「………それ、どういう意味ですか…?」

奴隷ではなく、武器である…それはつまり…。


「………ライが拾ってきた娘ってのが…武器そのもの…って言いたいのか?」

自然、交わす言葉が囁き声になっていく。
訳が分からないと狼狽えるライを傍目に、ロキの答えに対しレヴィはゆっくりと頷いた。

「……大きな損害は出ていないが…最近、俺達の情報が一部…国側に漏れている。………内部に裏切り者、もしくは………あちら側のスパイが彷徨いていると俺は踏んでいる」


…もし、その拾ってきた娘が、バリアン国家から送り込まれた人間だったら?

レヴィの言葉に、ライは静かに息をのむ。
もしそうだとすれば……まんまと敵方の人間を迎い入れてしまったことになる。
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