亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

何かと卑怯な手を使ってくるバリアン国家の事だ。ライの様にお人好しな人間の感情を利用する事も有り得ない事ではない 。

事実…過去に、そういった心理を利用されてバリアン国家は赤槍を潰したのだ。
人の弱い心を巧みに操る最低な人間が独り、あの国家にはいるのだから。

「………そんな…」

信じられない、と呟くライだったが、青年を見詰めるレヴィの視線は冷たい。
そこに、容赦の言葉は何処にも見いだせない。

「………敵方には、魔の者もいる。俺達人間の想像を上回る事くらい、何だって出来る。………魔術が非現実な代物だってことを忘れるな」


言い終えるや否や、レヴィは腰にぶら下げた短剣を鞘から抜き出した。
急な弧を描く曲線の短い刃が、焚き火の明かりを鈍い光沢で跳ね返す。


「………場合によっては、お前が拾ってきた娘………直ぐにでも捨てる必要がある」

「捨てるって………殺さなければいけないんですか!何もそこまで…」

「なら、口止めでもするのか?……幸いにも相手は女だ。…手荒い真似の一つや二つで、話せなくするくらいは簡単だがな」

「レヴィ…」

とてもじゃないが、道徳に反する事を淡々と述べるレヴィにロキは顔をしかめるが…彼の眼光は決して揺るがない。

「………いつ斬られるか分からない命を賭けて生きている身だ。加えて俺は、沢山の仲間の命も背負っている。……綺麗事だけじゃ、守れない。………そんな事くらい、分かっているだろう……お前も、ロキも…」


握り締められていた剣は、勢いよく焚き火の隅に突き刺さった。
固い地盤を貫くそれは、漂う熱を浴びてほんのりと赤みを帯びていく。



「………とにかく、娘を調べる必要がある。怪しい点が少しでもちらついたら………分かってるな、ライ」

「………」


有無を言わせない白槍の言葉に、胸中で渦巻く感情に悩まされながらも、ライは頷いた。

…自分のせいで、仲間に危険を及ばせる訳にはいかない。




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