亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

それが、ケインツェルという男。



全ての戦略を練るこの男の頭は、嫌気が差すほどに……狂っているのだ。
一度顔を合わせれば、もう奴の事など恐らく死ぬまで忘れられない程に強い印象を受けるのは確実だろう。
色白の背の高い優男で、度のきつそうな銀縁眼鏡の奥からは、悪魔の様な笑みを含んだ細められた目が視線で舐め回してくる。
何段階かに分けられた高笑いに、気味の悪い独り言。手遊びをしながらニヤニヤと見て来るその眼差しは、受ければ一瞬で不快になることは間違いない。

前バリアン王である老王が君臨していた頃から側近として城に居座っていたが、その頭の回転の速さと戦略においては誰もが舌を巻く程で、約十年程前から…三槍はこの男の頭に悩まされ続けているのだ。


この男、戦運びやら戦場での兵士の配置やら…ただ戦略が上手いだけではない。

……とにかく、最低で残忍極まりないのだ。非人道的な行為を躊躇も無く…否、楽しみながら行うのだ。


恐らく、ケインツェルという男にとって…戦争はただの盤上のゲームに過ぎないのだ。
いかに手を汚さずに、いかに敵を苦しめて殺すか。
国の存亡ではなく、どのくらい楽しめるか…それしか頭に無いのだろう。 そんな気の狂った男を、未だに側近として傍に置いている現在のバリアン王の気が知れない。はっきり言って、掴み所の無い人物だ。


ケインツェルの名が出てから、ライは急に押し黙ってしまった。
自分達にとって、あの男は天敵以外の何者でもないのだが…ライからすれば、それ以上の…特に因縁のある敵の一人でもある。



「………ライ。…心配するなよ………お前ら赤槍と………ドールの仇は、絶対にとるんだからな」

「………」








三年前の惨劇が、ライの脳裏に浮かぶ。



たった半日の乱闘で潰され、挙げ句晒し首にされた…赤槍の仲間達の、青白い顔。

雪の国に送り込まれ、そのまま帰らぬ人となった…赤槍の長である少女の背中。













人生で二度目の孤独をライに与えたのは、あのケインツェルだ。
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