亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
「あの陰険眼鏡でさえ何も行動に出ようとしないのは、尋常じゃない。…三年だ。もう三年も、奴らは動いていない」
三年前の新バリアン王の即位から、攻撃の手はおろか…国政までも放置を決め込んでいるのだ。
これが好機と攻め込むのも有りと言えば有りなのだが…罠なのではないかと迂闊に手が出せないでいる状態だ。
…静かすぎる城の沈黙が、妙な恐怖を覚えさせる。
「冬眠とかだったら笑えるな」
「ああ。冬眠と見せかけた狩りだとしたら、笑えないがな。……バリアンの戦力だが…情報によると、目立った編成は何もされていない様だ」
「という事は……相も変わらず、『赤の武人』の総大将も三年前と同じって事ですか」
バリアン国家の軍事力。強者揃いの兵士達は、通称、赤の武人と呼ばれている。
地の利を活かす潜伏戦法を得意とする赤の武人は、地上のみならず、サラマンダーという火を吹く巨大な鳥をも駆使するため、その攻撃は空にまで及ぶ。
反国家組織の三槍にとって、この赤の武人という戦力が巨大な壁となって立ちふさがっているのだが…。
「……総大将はあの…あー…何ていう奴だっけ?…顔にでかい傷のある、大柄の…」
これまでにも何時か対面したことはあるが、名前が思い出せないと腕を組んで唸るロキに…何処か妙に鋭い相棒の、レヴィの冷たい声が投げ込まれた。
「―――ウルガだ。ウルガ=デニメス…」
こちらをチラリとも見ようとせず、吐き捨てる様に言ったレヴィに…ロキはわざとらしい乾いた笑い声を上げた。
「……あ……ああそうそうそんな名前だった気がするな!うん、そうだそうだ。軍事力の情報はそんなもんだよな。じゃあ話を次に移ろうぜ!」
話題を変えようと必死なロキのあからさまな避け方に、ライは慌てて情報整理を進める。
当のレヴィはというと、焚き火の明かりをじっと凝視したままだ。
「…ええっと………あ、そう言えば今日、他国からの使者が入城していたらしいじゃないですか」